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大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)243号 判決

原告

稲垣昭一

右訴訟代理人

影田清晴

曽我乙彦

金坂喜好

佛性徳重

清水武之助

被告

辻史郎

右訴訟代理人

川浪満和

主文

原告が、別紙目録記載の建物について賃借権を有することを確認する。

被告は原告に対し、別紙目録記載の建物を明渡し、かつ、昭和五七年六月一日から右建物明渡ずみまで一か月金一二万円の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

この判決の第二項は仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一、二、三〈省略〉

四請求原因4の事実中、本件建物を被告が占有している旨の被告の自白の撤回の可否について先ず検討する。

被告は、昭和五八年五月一一日の本件第二回口頭弁論期日において右自白をなし、昭和五九年三月六日の本件第一〇回口頭弁論期日において右自白の撤回の申述をしているものである。ところで、本件訴訟の経過をみると、本訴より先に本件建物所有者である古箕良子から被告を相手方として本件建物明渡請求訴訟が昭和五七年八月三〇日提起され(当庁昭和五七年(ワ)第六七一一号事件)、同年一〇月二一日、被告が弁護士川浪満和に対し右の訴訟について委任をなし、同年一〇月二九日の右訴訟の第一回口頭弁論期日において、本件建物を被告が占有していることは認める旨の陳述(自白)をなし、同年一一月二六日の右訴訟の第二回口頭弁論期日において本判決事実摘示欄の抗弁に記載のとおりの賃借権に基づく占有の主張をなし、その立証として乙第一、二号証を提出し、右訴訟係属中の昭和五八年一月一九日に原告から被告及び古箕良子を相手方として本件訴訟が提起され、同年三月九日午前一〇時に本件訴訟の第一回口頭弁論期日が開かれ、同日同時刻に右昭和五七年(ワ)第六七一一号事件の第四回口頭弁論期日が開かれたが、被告は、本件訴訟については訴訟委任もせず自らも出頭しなかつたが、右別訴では訴訟代理人弁護士川浪満和が出頭していたこと、右期日後の同年四月二二日付で本件訴訟についても被告から右川浪弁護士に訴訟委任がなされ、本件訴訟の第二回口頭弁論期日で、右別訴の第五回口頭弁論期日である同年五月一一日午前一〇時に、本件訴訟について前示の自白の後、同日、当裁判所において右両訴訟を併合審理するとの決定をなし(本件訴訟の原告の古箕良子に対する請求は、同日、古箕において認諾をなし、訴訟は終了している。)、以後、同年六月一五日の第六回口頭弁論期日に被告の占有正権原立証のための被告本人尋問の申請が採用され、同年八月三一日(第七回)、同年一一月九日(第八回)の二回の期日にわたつて被告本人尋問が実施され、右尋問終了当日に、右両訴訟が分離され、即日、右別訴は弁論が終結されたこと、右期日終了後の同年一一月一五日に、被告訴訟代理人から前示の自白を撤回する旨記載された同日付の準備書面が当裁判所宛提出され、右分離後の第九回口頭弁論期日(昭和五九年一月二〇日実施)を経て、昭和五九年三月六日の第一〇回口頭弁論期日において、被告訴訟代理人が右準備書面を陳述して自白の撤回をなすとともに、同日付でその立証のため証人長谷川こと金健一及び証人荒木宏の各尋問を申請したことが明らかであり、右審理経過に徴すると、右自白撤回がなされた口頭弁論期日には、訴訟は判決をなすに熟していたのであり、自白撤回に伴う新主張の審理には新たな立証を要するのであるから、本件自白の撤回は時機に後れた防禦方法であり、そのため訴訟の完結を遅延させるものといわなければならない。そして、右自白の撤回が後れたことについて、被告訴訟代理人は、原告から辻史郎を被告として訴えられたのでこれに対応する答弁をしたこと及び結果的には、被告本人に訴訟代理人が騙されていたことによる旨申述している。右前者の理由は、まさに故意による防禦方法の提出遅延を被告において自認するものであり、後者についていえば、なるほど、前記第七回口頭弁論期日における被告本人尋問の際、被告は、自己が本件建物の占有者であり、これが正権原に基づく旨の抗弁主張にそうかのような供述をし、被告訴訟代理人の主尋問が終了し原告ら訴訟代理人の反対尋問の途中で右尋問期日が続行され、その続行期日である前記第八回口頭弁論期日に、被告は、前回の供述を突如翻して自らの占有はない旨供述するに至つたことが明らかであるが、被告本人の右供述の変転をもつて弁護士である被告訴訟代理人が被告本人に騙されていたというのであれば、被告訴訟代理人に重大な過失があつたと認めざるを得ず、同時に、被告本人に故意があつたものと認めざるを得ない。そうすると、本件自白の撤回の時機が後れたことは、被告本人ないし被告訴訟代理人の故意もしくは少くとも重大な過失によるものと判断でき、従つて、右自白の撤回は民訴法一三九条に従いこれを却下する。

〈以下、省略〉 (宮城雅之)

目録〈省略〉

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